ロスカットは損失の上限ではない|未収金45件が示す事実
ロスカットが働いても、損失が証拠金の中で止まるとは限りません。金融先物取引業協会は、止まらなかった口座の数を毎月公表しています。2026年7月分は個人で45件・5,342千円。押さえる順番は3つです。①未収金という統計が何を数えているか、②直近12か月で件数がどう振れているか、③そもそも制度がどこまでしか守っていないか。この順で見ると、ロスカットの位置づけが変わります。
そもそも未収金とは何か?
ロスカットが実行されたあとも、預けた証拠金では損失を賄いきれず、口座に残ってしまった不足額のことです。金融先物取引業協会は、これを「ロスカット等未収金発生口座数」として月次で公表しています。件数と金額の両方が出ます。店頭取引と市場取引、個人と法人の4区分です。
言い換えると、この統計はロスカットが損失を止めきれなかった回数そのものです。残高がゼロで止まらず、マイナスまで抜けた口座の数。だから読む価値があります。
公表は速報扱いです。統計としては2019年1月分以降、店頭取引・市場取引のグラフが順次更新されてきました。数字は毎月上書きされます。
2026年7月は何件だったのか
個人は店頭取引43件、市場取引2件の合計45件。金額は店頭4,603千円、市場739千円で合計5,342千円でした。法人は店頭4件・45千円です。個人の1件あたりに直すと約119千円になります。
ここで効くのは、件数と金額を分けて見ることです。件数が少なくても、1件が重い月があります。逆もあります。7月は両方が跳ねた月でした。
| 2026年7月 | 店頭取引 | 市場取引 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 個人・発生件数 | 43件 | 2件 | 45件 |
| 個人・発生金額 | 4,603千円 | 739千円 | 5,342千円 |
| 法人・発生件数 | 4件 | 0件 | 4件 |
| 法人・発生金額 | 45千円 | 0千円 | 45千円 |
直近12か月は、どこまで振れているか
0件の月と45件の月が同じ1年の中に並びます。2025年8月と2026年6月は個人の発生が0件でした。一方で2026年2月は20件、3月は26件、7月は45件。平時が薄いぶん、出る月に集中します。
| 年月 | 個人・件数 | 個人・金額 |
|---|---|---|
| 2025年8月 | 0件 | 0千円 |
| 2025年9月 | 2件 | 1千円 |
| 2025年10月 | 4件 | 46千円 |
| 2025年11月 | 2件 | 1千円 |
| 2025年12月 | 7件 | 302千円 |
| 2026年1月 | 2件 | 26千円 |
| 2026年2月 | 20件 | 328千円 |
| 2026年3月 | 26件 | 281千円 |
| 2026年4月 | 6件 | 222千円 |
| 2026年5月 | 2件 | 19千円 |
| 2026年6月 | 0件 | 0千円 |
| 2026年7月 | 45件 | 5,342千円 |
1件あたりの重さも並べると差が出ます。2026年3月は26件で281千円、1件あたり約11千円。2026年7月は45件で5,342千円、1件あたり約119千円です。同じ「未収金が出た月」でも中身が10倍違う。
2025年12月も特徴的です。個人7件・302千円に加えて、法人でも市場取引1件・14千円が出ています。法人の発生は年に数回しかありません。
制度は、どこまでしか守っていないのか
証拠金規制が押さえているのは2つのタイミングだけです。①新規に建てるとき、②営業日ごとに業者が定める証拠金率判定時刻。この2点で取引の額の4%以上の預託を求めます。判定と判定のあいだの値動きまでは、制度の射程に入っていません。
条文の作りを見ると分かります。金融商品取引業等に関する内閣府令は、次の2つを禁止行為として置きました。第117条第1項第27号と第28号です。
- 契約締結時:実預託額が約定時必要預託額に不足しているのに、直ちに不足額を預託させずに契約を継続する行為
- 証拠金率判定時刻:実預託額が維持必要預託額に不足しているのに、速やかに預託させずに取引を継続させる行為
つまり業者に課されているのは「不足したまま走らせるな」という義務です。損失を4%の中に収める約束ではありません。ここが誤解の発生地点になります。
金融庁が2010年に規制を入れたときの問題意識も、そのまま残っています。協会の解説には、当時の論点が3つ挙げられています。ロスカット・ルールが十分に機能せず顧客が不測の損害を被るおそれ、顧客の損失が証拠金を上回ることにより業者等の財務の健全性に影響が出るおそれ、そして過当投機の防止です。2つ目が、まさに未収金の話です。
4%と25倍の関係
取引の額に4%を乗じた額が必要証拠金です。100万円分の取引なら4万円。逆に見れば、4万円で100万円分が動かせる。これが上限25倍の意味になります。
施行は2010年8月1日でした。ただし施行から1年間は証拠金率2%、つまり上限50倍とする経過措置が置かれています。25倍になったのは2011年8月1日以降です。改正府令の公布は2009年8月3日でした。
両建ては証拠金が倍にならない
同一通貨ペアで売り買い両方を持つ場合、売りと買いの取引額を比べて多い方を基準に必要証拠金を計算できます。協会の例示が分かりやすい。米ドル/円を100円03銭で1万米ドル買い、同じく100円00銭で3万米ドル売り。買いは100万300円、売りは300万円。多い方の300万円に4%を掛けて、12万円が必要証拠金です。
注意点が1つあります。ユーロ/円の1万ユーロ買いとユーロ/米ドルの1万ユーロ売りを、米ドル/円の買いとみなして計算するBOE方式は認められていません。相殺できるのは同一通貨ペアだけです。
初心者がやりがちな失敗は?
いちばん多いのは、ロスカット水準を「ここで自動的に損失が確定する線」だと読むことです。実際には、その線で決済注文が出るだけ。約定価格は市場が決めます。飛べば線を割り込んだ場所で約定します。
- 入金額が最大損失だと思い込む:未収金の統計は、そうならなかった口座の実数です。
- 平時の0件を常態だと見る:直近12か月でも0件の月が2回ありました。0件は「起きない」ではなく「その月は出なかった」です。
- 件数だけ見て金額を見ない:2026年3月は26件で281千円、7月は45件で5,342千円。1件の重さが違います。
- 判定時刻を知らないまま持ち越す:証拠金率判定時刻は業者が営業日ごとに定めます。自分の口座の時刻は契約締結前交付書面で確認してください。
- 定額証拠金方式を固定額だと誤解する:定額方式でも、常に取引の額の4%を下回らないよう見直しが求められています。
使っている業者の契約締結前交付書面で、①証拠金率判定時刻と②ロスカット水準の2つを書き出す。そのうえで協会の月次速報をブックマークしておく。指標と同じで、定義から入るのが結局は早い道です。数字の出どころを1つ押さえるだけで、口座の見え方が変わります。
よくある質問(FAQ)
Q. 未収金とは何ですか?
ロスカットが実行されても、預けた証拠金では損失を賄いきれず、口座に残ってしまった不足額です。協会が「ロスカット等未収金発生口座数(月次・速報)」として件数と金額を公表しています。
Q. 2026年7月の未収金はどれくらいですか?
個人が店頭取引43件・市場取引2件の計45件、金額は店頭4,603千円・市場739千円の計5,342千円です。法人は店頭4件・45千円でした。
Q. 毎月同じくらい発生していますか?
いいえ。直近12か月では2025年8月と2026年6月が0件、2026年2月が20件、3月が26件、7月が45件です。月による振れが大きい統計です。
Q. 証拠金以上の損失が出るのはなぜですか?
証拠金規制が求めるのは、新規建玉時と営業日ごとの証拠金率判定時刻における取引の額の4%以上の預託です。判定と判定のあいだに相場が飛べば決済が追いつかず、不足が残ることがあります。2010年の規制導入時にも、顧客の損失が証拠金を上回るおそれが論点として挙げられていました。
Q. レバレッジ25倍はいつからですか?
内閣府令の改正が2009年8月3日に公布され、2010年8月1日から施行されました。施行後1年間は証拠金率2%(上限50倍)の経過措置があり、4%以上(上限25倍)になったのは2011年8月1日以降です。
Q. 両建てすると必要証拠金は倍になりますか?
同一通貨ペアで対当する建玉がある部分については、売り買いの取引額を比べて多い方を基準に計算できます。異なる通貨ペアを合成して相殺するBOE方式は認められていません。
- 一次情報:
- 金融先物取引業協会「ロスカット等未収金発生口座数(月次・速報)」(2025年8月〜2026年7月の件数・金額/2026年9月12日確認)
- 金融先物取引業協会「個人顧客を相手方とするFX取引に係る証拠金規制」(内閣府令第117条第1項第27号・第28号、4%以上、2010年8月1日施行と経過措置、両建て時の計算例/2026年9月12日確認)
最終更新:2026年9月12日